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鉄をめぐる民俗
第26回 「オオカミと刃物」
日本には、以前、オオカミがたくさんいたといわれ、民話や伝承の中にもしばしば登場する。
オオカミが人を襲うときには、必ず頭上を跳び越してくるという。跳び越せる距離に近づかせないため、人の丈だけの長さの布を引きずって行けば、それより近くにはやって来ない。男は褌を引きずって行くといい、昔は夜間に山間部を行くときにはそうしていたといわれる。
オオカミの弱点は腹で、腹の皮が薄いからすぐ切れるという。人を襲って跳び越してきたとき、頭上に刀や鎌などをかざしておくと、それで腹の皮が切れ、難を逃れることができる。刀などでなくても、針でも腹は切れる。そのためオオカミは、頭に針が光っていても怖がって跳び越してこない。したがって、女性は髪に針をさしておくものだといわれた。
昔から、百姓は山や野に仕事で行くときには、必ず鎌など刃物を持って行けといっていた。野山にはオオカミや蛇をはじめどんな魔物がいるか分からないから、刃物が魔除けになるのだと。
(立石 憲利)