鉄をめぐる民俗

第6回 「鉄と水」

 1月末に行われた島根県奥出雲町の「日刀保たたら」での操業を見学した。炉が壊され、まっ赤な鉧(けら)が引き出される時は感動的だった。「日刀保たたら」の構造が「奥出雲たたらと刀剣館」に復元されていた。
 最下部に排水溝をつくり、その上に石、砂利、木炭、粘土を重ね、さらに木炭を詰め、粉炭や灰が敷かれた上に炉が築かれている。
 たたらは水分を嫌い、水分があるとよい鉄ができないといわれる。古代のたたら遺跡の発掘現場を見ても、周囲に排水溝を設け、炉の底部は焼き固めたり、石が敷き詰められて水を排除するために工夫がされている。

 昔話「蛇婿入り」は、鉄と水の関連を示す話だ。娘のもとに毎晩見知らぬ男が通ってきて、娘はやせ衰える。親が糸を通した針を男の裾に刺すように言う。翌朝糸をたどって行くと、山の洞穴で蛇が死んでいた—–こんな話だ。蛇は水の神であり、針は鉄だ。この話も水と鉄が相容れないものだということを物語っている。話はたたら製鉄とも関係しているのではないだろうか。

(立石 憲利)


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