鉄をめぐる民俗

第10回 「金売吉次」

♪七つ道具を投げ出して 弁慶あやまる 五条橋 
 金売吉次がおともして 落ちゆく先は奥州路 (唱歌「牛若丸」の一節)

 金売吉次を「広辞苑」でみると「奥州の黄金を京で商って長者になったという伝説的人物。鞍馬で知り合った牛若丸を平泉の藤原秀衡(ひでひら)のもとに連れて行ったとされる」とある。
この金売吉次は、岡山県新見市哲西町八鳥の人だと伝えられている。吉次は道明寺屋金売吉次といい、道明寺屋敷跡が八鳥にある。
 また、吉次の墓という自然石が新見市上市町田曽にある。地元では金石さんと呼んでいる。源平合戦の際、源氏の侍を案内して田曽にやって来て住み着き、この地でなくなったと言い伝える。
 新見市は、以前、阿哲郡で阿哲郡は阿賀郡と哲多郡が一緒になってできたもの。哲多郡は文字通り「鉄多郡」であり、砂鉄製鉄の盛んな地域であったことを示す。
 哲西町内には鉄を精錬する大鍛冶屋や、農具などを造る小鍛冶屋の跡も残っている。
このように製鉄業が盛んだった地域だから金売吉次の伝説もできたのだろうと考えられる。

(立石 憲利)


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