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鉄をめぐる民俗
第25回 「刀の力で仇をとる」
今回も刀の持つ力の話を紹介しよう。この話は明治時代になってから、実際にあったという話である。
いまは真庭市となっているが、旧美甘村に、ひなにはまれな美しい娘がいて、たいそう評判だったと。若者たちは娘に会おうと訪ねて行くのだが、酒一升を持っていかないと会ってもらえなかったのじゃ。
隣村の二川(湯原ダムで水没)に1人の若者がいて、娘に1度会いたいと思っていた。しかし貧乏で酒を買うことができない。それでも会いたいと訪ね、縁側に腰掛けて、障子のすき間から中をのぞいて見ていた。
野良から帰ってきた父と息子に見つかった若者は、捕らえられて縄でしばられ、村境の橋の上に転ばされた。父親が縄の端を持って、「おい、若いもん、二川に帰りたいか」と言って東に引っぱる。すると息子が「美甘におりたいんじゃろう」と言って西に引っぱる。そうしているうちに、若者は息も絶え絶えになってしまったと。
通りかかった村人がかわいそうに思って水とむすびを与えると、若者ははうようにして家に帰ったが、それが原因で死んでしまった。
若者の母親は悲しんで、葬式のとき棺の中に刀を入れ、「この刀で必ず仇をとれ」と言って墓に埋めた。
それからしばらくして娘の家と一族では、つぎつぎに不幸が起こった。
不幸があまりにも続くので、若者の家に断りに行き、墓の中から刀を掘り出してもらった。すると、不幸はぱったりとやんだということじゃ。
(立石 憲利)