鉄をめぐる民俗

第24回 「刀のつばの力」

 昔、山奥に化け物が出るというので、豪傑の医者が正体を見届けてやろうと出かけて行く。毎夜、あっち、こっちと歩くが化け物に出会わない。ある晩、さがし疲れて峠で休んでいると、笹の音がして何かが近づいて来る。化け物が出たかなと思っていると、突然鶏の鳴き声がする。火打ち石で火をつけると、恐ろしく大きな狼が逃げ去る。
 夜なかに山中で鶏の鳴き声とは不思議だと思っている。翌朝、夕べの鶏鳴は、刀のつばに彫ってある鶏が鳴いたのだと分かる。医者を襲いに来た狼が、鶏鳴で夜が明けたと思って逃げて行ったのだ。
 刀は、人の魂であると医者は気づく。
 こんな昔話がある。
 刀は刃物であることが刀の根源だろうが、この話はつばにも力があるというのだ。刀は刃物としての役割だけでなく、刀全体が力を持ち、それは人の魂の反映なのである。

(立石 憲利)


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