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鉄をめぐる民俗
第35回 「金の斧」
岡山県久米郡美咲町南(旧旭町)に、まさかり渕という深い渕があった。昔、木こりがこの渕にまさかり(大型の斧)を落とし、渕に入って探していると、水鬼が現われ、木こりを水中に引き込んでしまった。その後も、この渕では、いろいろな怪異があったという。 まさかり渕の伝説は、昔話「金の斧」を思わせる。両者は共通するものだろう。
「金の斧」は、木こりがあやまって斧を渕に落とす。すると水の神が現れたので、斧を取ってくれと頼む。神は金の斧を持ってくる。次に銀の斧を持ってくるが「そんな立派なものではない。鉄の斧だ」というと、金銀鉄の斧をくれる。
隣の木こりが、自分ももらおうと渕に行き斧を落とす。水の神が金の斧を出したので「自分のだ」と受け取ろうとすると、神は「嘘つきめ」といって姿を消す。隣の爺は斧を失ってしまう。
「隣の爺型」といわれる昔話で、真似や欲張りをすると罰せられるというもの。同時に木こりにとって斧は非常に大切なものだとも言っているのだ。
腕のいい鍛冶屋の打った斧・まさかりの切れ味はすごい。木を切った者ならすぐ分かる。
(立石 憲利)