鉄をめぐる民俗

第45回 唱歌「村の鍛冶屋」

  小学校の音楽の時間に「村の鍛冶屋」を習った。リズミカルな歌なので、歌が不得意の私でさえ歌えるようになった。今でも一番の歌詞は思い出せる。二番は記憶にない。

「しばしも休まず槌うつ響き、飛び散る火花よ、走る湯玉、ふいごの風さえ息をもつかず、仕事に精出す村の鍛冶屋」

 いまでは村の鍛冶屋は姿を消してしまって、この歌にあるような光景は見ることができない。「飛び散る火花」の火花は、熱した鉄を金槌で力強く打つときに飛び散る火のこと。「走る湯玉」の湯玉は、水の中に熱した鉄を入れると、ジョンと音を立て、水が沸騰し玉のように散る。湯玉ともいう。
 このようにいまでは言葉がむずかしい。
 この歌は小学校歌で、大正元年(1912)に『尋常小学校歌(四)』にのったもの。当時の歌詞は四番まであったのに、戦後、私たちが習ったときには、二番までだった。四番まであったことを知ったのは、最近のこと。
 二番は「あるじは名高きいっこく老爺(おやじ)、早起き早寝の病知らず、鉄より堅しとほこれる腕に、勝りて堅きは彼がこころ」。
 「いっこく老爺」とは「頑固おやじ」のこと。この言葉もあまり使われなくなった。

(立石 憲利)


前の記事へ次の記事へ

ページ上部へ戻る