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連載エッセイ「刀のかたち・人のかたち」
第2回「円空の末裔」
通勤途上だった。健康のためにバスを一つ前に降りる。朝の繁華街は、前日の疲れを装っていた。ゴミが散乱し、シャッターが閉じられて薄暗い。僕はその中をゆっくり歩く。
空き店舗の前に、段ポールが目に入った。そこには、浮浪者がいた。僕くらいの年齢だろうか。蔑視しながら通り過ぎようとした。
視線の先に、彼が彫ったらしい木の塊が映った。
背を丸めて、何かを彫り続けていた。通行人の存在など気に止めない。手製の柄らしき小刀を数本路上に放り出している。どこか円空仏に似た荒い削り口。小刀に朝陽が浴びて、反射した光がシャッターに異様な形を作っている。
「乞食坊主」の円空が、鉈で彫ったものが、今では芸術品として評価されている。彼を現代の円空だとは誰も想像しない。木屑が路上に溢れている。街風に吹かれて、路上を汚しているだけだ。
仕事の帰り、彼の様子が気になった。だが、彼は朝の場所にいない。きれいに掃除されて、彼が居たことすら分からない。僕は近くの馴染みの居酒屋に入った。老いた女将が朝の騒動を話し始めた。
誰かが、彼を警察に通報したらしい。それも、彼が刃物を振り回していると大げさにした。数人の警察官が彼を抑え、商店主たちが掃除をした。その様子を彼女は見ていた。
「浮浪者は怖いからね」
人は外見で多くを判断し、それに輪をかけたように自分勝手な想像力を働かせる。それも、刃物を持つTPOを誤れば、そうなるのかもしれない。現代は、不信の社会だ。
女将が刺身を切っている。以前、その包丁が特注品だと自慢していた。ものを削り、切る道具としての刃物にも、人のように浮かばれる差異があるのだろうか。