鉄をめぐる民俗

第3回 「金屋子神」

  中国地方は、古来から鉄生産の中心地で、明治初期までは国内の鉄生産の90%を占めていたといわれる。製鉄に従事する人々=タタラ師の守護神が金屋子神(かなやごしん)である。岡山県北にも小祠が各地にあるが、本社は島根県能義郡比田村(安来市)である。「金屋子神社祭文」によると、播磨郡岩鍋(兵庫県宍粟市)に天降り、製鉄を伝え、さらに白鷺に乗って比田に降り、タタラ吹きを伝えたという。岡山県内では備中一宮・吉備津神社から白鷺に乗って比田に行ったとの伝説もある。吉備の枕詞は「真金吹く」である。真金吹くとは、鉄を製錬することであり、吉備国が製鉄の中心地であったことから枕詞になったものであろう。備中から出雲へと製鉄が伝えられたという伝説も、一理あるものである。

 岡山県北の上斎原(苫田郡鏡野町)では金屋子神は女神で、桂(かつら)の木を伝って降りて来た。そのとき四つ目の犬がほえかかったので、金屋子神は四つ目の犬が嫌いだという伝記もある。しかし、金屋子神という名は記紀にはみえない。

(立石 憲利)


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