鉄をめぐる民俗

第8回 「かねを吹けば長者になる」

岡山県真庭市鉄山(かねやま・旧美甘村)は、地名のとおり砂鉄を採取した山であり、たたら操業がされたところだ。花崗岩地帯で真砂から不純物の少ない良質の鉄が取れることから、一帯で砂鉄が採取されている。地形を見ると、自然の山の形ではなく、掘り崩されたということがすぐ分かる。
 山奥の地区なのに、これだけ広範囲で砂鉄採取とたたらが行われたのは「かねを吹けば長者になる」という諺のように、多くの鉄山師が入り込んできたためであろう。これは、この山奥から米や炭を運び出すより、鉄を運んだ方がずっと経済効率がよいということでもあった。
 砂鉄採取で山を掘り崩した跡は、少し手を加えれば畑になり、真砂を流して砂鉄を取った下流では、濁水を引き入れておけば水田を造成することができる。こうして少ない労働力で田畑も造成されていった。いまでも、その姿がよく分かる。
 真砂から砂鉄を選別するのは、比重を利用した水選法だ。そのため水は欠かせない。多くは谷川を利用したが、人工水路(カンナ井手)も造られた。いまもその跡がわかる。しかし、濁水を流すため川が濁り、しばしば下流住民との間で爭いが起こっている。

(立石 憲利)


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