鉄をめぐる民俗

第21回 「鍛冶屋のいない村」

  いまから40年ほど前までは、村に1軒や2軒の鍛冶屋があって、鍬や鎌などの農器具や生活用品などを作っていた。農家などから注文があると生産するという注文生産が主流だった。いまでは村の鍛冶屋は、ほとんど姿を消してしまった。
 昔、この鍛冶屋がない村があった。神代村(新見市神郷町)で、こんな話が伝わっている。
 荒戸山(新見市哲多町)は玄武岩の山で、ちょうど丸い鉢を伏せたような形をしている。この山には荒戸神社が祭られている。
 昔、笠岡沖で漁をしている船がたびたび転覆するということが起こった。不思議に思って調べてみると、荒戸神社に奉納されている鉄の蛇が出歩き、あばれていることが分かった。
 早速、蛇が出歩けないように、鉄の鎖で縛ることにし、神代村の鍛冶屋に頼んだ。鍛冶屋は丈夫な鎖を作り、蛇を縛ろうとした。すると鉄の蛇が鎌首を持ち上げて向かってくる。村人の加勢でやっと縛った。それからは笠岡沖での船の転覆はなくなったという。
 ところが神代村では鍛冶屋が長続きしなくなり、鍛冶屋のいない村になってしまったのだと。

(立石 憲利)


前の記事へ次の記事へ

ページ上部へ戻る