鉄をめぐる民俗

第36回 「一寸法師と針」

 針の刀を腰に差し、お椀の舟に箸のかいで京にのぼる。一寸法師の話は絵本などでよく知られている。ところが一寸法師だけでなくいろいろな名前になっている。五分次郎、一寸八分どん、指太郎、ちび太郎、豆一、豆市、どんぐり太郎など。
 一般的な話は鬼に呑まれた一寸法師が、針の刀で腹の中を刺すと、鬼はたまりかねてはき出す。鬼の忘れた打出の小槌で一寸法師は立派な男になり結婚するという内容。
 この話では、針が大切な武器である。百姓が仕事などで野や山へ行くときには、魔除けのため刃物を必ず持って行く。女は針でもよいから持って行けという。ここでも針は立派な武器だ。

 岡山県には、こんな一寸法師もある。分限者の娘が病気になり、鬼の肝がよいという。一寸法師が鬼の島へ出かけると、鬼に呑まれる。腹の中で肝を木綿針で刺してやわらかくして取り出し持ち帰る。娘の病気を治した一寸法師は大金をもらって大分限者になった。
 小さな針だが、一寸法師にはよく似合う刀だ。

(立石 憲利)


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