鉄をめぐる民俗

第20回 「鍛冶屋の婆」

  「鍛冶屋の婆」という昔話があり、全国的に広く伝承されている。厄難克服の昔話である。
 話の内容は、「旅人が山中で日が暮れ、木の上で寝ていると、狼が肩車をして襲ってくる。少し届かないので、鍛冶屋の婆という大狼を呼んで来て襲う。旅人が刀で切りつける。翌朝、鍛冶屋を訪ねると、婆が怪我をして寝ている。傷口が同じなので、旅人は婆を殺す。婆は狼の姿になる。床下から婆の骨が見付かる」というもの。
 狼は山の神の使者として神聖視され、岡山県内では高梁市津川町の木野山神社、津山市桑上の貴布祢神社が有名。
 霊獣としての狼から、次第にこわい狼に変化してくるなかで、このような昔話が生まれてきたのだろう。
 では、なぜ鍛冶屋の婆なのか。狼は山の神の使者、鍛冶屋の祭神・天目一箇神(あまのまひとつのかみ)は山の神の姿である。山の神という共通項で、狼と鍛冶屋が結びつき、「鍛冶屋の婆」の昔話になったものと考えられる。
 わが国の狼・ニホンオオカミは絶滅してしまった。しかし、昔話には多く登場する。

(立石 憲利)


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