鉄をめぐる民俗

第23回 「死者と刀」

  前回、腰刀が大蛇を追い払ったという話を紹介したが、刀に魔よけの力があるというのは、いまでも暮らしの中でいきている。
 死者が出ると北枕にして寝かせ、掛け布団の上に、刀、まさかりなどの刃物、または箒を置く。刀はすぐ抜けるように鯉口を切っておく。
 これは魔よけのためにするといわれる。死者を火車(かしゃ)という魔ものが取りに来る。火車は劫を経た(長く生きた)猫が化けてなるものだとういう。したがって、死者のいる部屋には、決して飼い猫でも入れるものではないという。特に猫が死者の上をまたいで通るのを嫌う。
 刀や刃物などは火車から遺体を守るためのものだ。入棺してからは、刀などは棺の上に置く。最近では、刀のない家も多く、刀のかわりに包丁やかみそりなどで代替している。
 ものをスパッと切る刀は、魔ものもスパッと切ってくれるだろうと人々は考えたのだ。

(立石 憲利)


前の記事へ次の記事へ

ページ上部へ戻る