鉄をめぐる民俗

第30回 「刀と夜泣き-若子様」

  刀は、ものをスパッと見事に切る。この切れ味から、病魔など悪いことを切ってしまいたいと願うのは人として当然だろう。
 岡山県苫田郡鏡野町女原(旧奥津町)に、若子様という石碑がある。戦国時代、同町西屋の山頂にあった西屋城は、難攻不落といわれていたが、毛利勢に攻められて、天正11年(1583)、ついに落城する。城主・斎藤玄蕃は、まだ幼い若殿を、乳母に預けて城落ちさせる。
 途中、敵に追われた若殿らは、岩陰に身を隠すが、幼い若殿が大声で泣きだした。とうとう敵に見つかり、その場で殺された。
 若殿を祀ったのが若子様で、子どもの夜泣き、寝小便に効験があるという。「刀を納めますから、どうぞ夜泣きを治してください」と願を懸け、治ると刀を奉納する。いまも木製やおもちゃの刀が何本も供えられている。
 刀で殺された若殿(若子様)に刀を奉納するというのはどうしてだろう。1つは、前述のように夜泣きを切ってもらおうと、もう1つは、若殿に刀を差し上げますから、二度と切られないようにと願ったのだろうか。

(立石 憲利)


前の記事へ次の記事へ

ページ上部へ戻る