鉄をめぐる民俗

第31回 「三穂(さんぼ)太郎」

 岡山県を代表する伝説に巨人伝説・三穂太郎がある。県北の奈義町にある菩提寺に、昔、地元の豪族・真兼が参拝していたとき美女に出会う。二人は仲良くなり契りを結ぶ。二人の間にできた子が太郎である。女は産室も授乳も見てはならぬといい、真兼も約束する。
 しかし、タブーを破って見ると、女は蛇体である。女は去るが太郎は成長、巨人となり、京都へ三歩で行った。それで三歩太郎(さんぼ太郎、三穂太郎)と呼ばれるようになる。
 太郎は地元の豊田姫を妻にするが、佐用姫も愛する。佐用姫は嫉妬して、訪ねてきた太郎の草履に針を刺す。針の刺さった太郎は狂乱して昇天する。そして体は周辺各地に散らばる。血肉は日本原一帯のクロボコ(黒土)と化す。いまも奈義町関本に頭を祀る頭様、鳥取県土師に肩を祀るニャクイチ様、美作市右手に右手を祀る右手大明神、奈義町西原に胴体を祀る荒関荒神などがある。
 この話は、昔話「蛇女房」と同じ型のもの。蛇は水神の化身だと以前にも記したが、蛇の息子・三穂太郎も鉄の毒で昇天するのだ。
 それにしてもスケールの大きい話である。日本原のクロボコは、クロガネ(鉄・黒金)を連想させる色だ。

(立石 憲利)


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