鉄をめぐる民俗

第37回 「一つ目の幽霊」

 このほど『総社市の石仏2』(清音地区編)が、市教委から刊行された。昨年度(2007年度)地元のの人と一緒に調査したものをまとめたものだ。
 この調査の際、三因にある鋳物師池(いもじいけ)の堤防上にある地蔵を見た。水死者の供養のために建立されたものという。地蔵は死者の顔に似ているのだろうか、少し淋しそうな表情をしていたのが印象的だった。
 そのとき、四十年ほど前、この地方の両墓制調査をした際に聞いた話を思い出した。「一つ目の幽霊が出る」。

 三因の地名を調べてみると鋳物師池のほか鋳物師、鋳物師迫、鋳物師尻、鋳物師谷など、鋳物や鍛冶に関連する地名があった。これらの関係者がいたところと伝えている。
 さきの一つ目幽霊は、鍛冶やタタラなどの神、天目一箇神(あまのまひとつのかみ)の姿ではないか、そう思い当たった。この神は金工、鍛冶の祖神で、いまでも鍛冶屋などで祭祀されている。
 鋳物師たちによって祭られていた天目一箇神が、それらの業がなくなって祭られなくなり、一つ目の幽霊として伝承だけ残ったのではないだろうかと。

(立石 憲利)


前の記事へ次の記事へ

ページ上部へ戻る