鉄をめぐる民俗

第12回 「諸上 (むらげ)」

 島根県奥出雲町横田にある日刀保たたらでの操業を見学したとき、たたら操業を指揮する村下(むらげ)の力の大きさを目の当たりした。刀剣に欠かせない玉鋼(たまはがね)を造るには、村下なしではできないと思った。
 島根県雲南市吉田の菅谷たたらを初めて訪れたのは30年ほど前だが、最近、鉄の歴史村を見に行った。村下がたたらの行われる高殿(こうどの)に入る道(村下しか通れない)・村下坂があるのを知って、さもありなんと思った。
 岡山県総社市にムラゲという地名がある。諸上と書く。周辺には、金添田、金井戸、金之本、黒田、金黒谷など製鉄と関連する地名が多くある。諸上から少し離れたところが、鋳物師で有名な阿曽(あそ)であり、ここでは日本最古級のたたら遺跡が見つかっている。
 諸上は村下で、村下の屋敷があった場所ではないかとも考えられる。
 村下を『広辞苑』で引いてみたら載っていない。そのことにも少々驚かされた。

(立石 憲利)


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