鉄をめぐる民俗

第16回 「犬の足」

 犬の足は鉄でできているんだよ。こういうと、子どもたちから「ええーっ」とか「うそーっ」という声が返ってくる。
 昔、犬の足は三本だった。弘法大師があわれんで、足が四本ある五徳から一本取って、犬に付けてやった。犬はその恩を忘れず、足に小便がかからないように上げてするのだと。
 五徳はもとは四徳といっていたが、犬に足を一本与えたので名前を一徳上げてもらって五徳になったのだと。
 「犬の足」という昔話だが、犬の習性を説明する短いなりによくできている。犬が小便するとき足を上げるのは、弘法大師に付けてもらった足なのだといわれると、子どもたちは納得する。
 五徳は最近見かけることがなくなった。いろりや火鉢が姿を消したからだ。炭火の上に置いて鉄瓶などを載せて湯を沸かしたり、煮物などする三脚の輪形の道具だ。鉄製のものが多い。
 犬が足を上げて小便するのは、もったいない足だからとなっているが、鉄に小便がかかると腐れやすい。それで鉄から小便を遠ざけているのではないだろうかとも考えている。

(立石 憲利)


前の記事へ次の記事へ

ページ上部へ戻る