鉄をめぐる民俗

第40回 「大歳の客」

新年を迎えたので縁起のよい話をしよう。

昔、大晦日の夕方、汚げな物乞い爺がやってきて
「旅の者ですが今晩泊めてくださらんか」
と宿を乞うた。ところが、どの家も
「きょうは大晦日じゃ。泊めることはできん」
と断ったと。

ある貧乏な家に訪ねていくと、
「うちは貧乏でふとんも食べ物もないが、泊まるだけなら泊まってくれ」
と、納屋にむしろを敷いて泊めてくれた。
「寒かろうから火に当たってから休みなさい」
そう言って豆がらを焚いてくれたのじゃ。

元日の朝、餅は少ししか搗けなかったが、雑煮の一つでも食べさせてやろうと、納屋に持っていった。ところが旅人がいない。むしろをはぐってもいない。ふと見ると豆がらを焚いたあとの黒い炭がピカピカ光っているではないか。よく見ると、炭が全部金になっていたと。
「こりゃ正月の神様が授けてくださったのじゃ」
それから、その貧乏な家は次第に繁昌して分限者になったと。

「大歳の客」という昔話で、岡山県ではたたらが栄んだった北部地方に多く伝承されている。火を焚いたあとが金になるという話は「炭焼き長者」の話とも共通し、たたら製鉄を想起させるものだ。

(立石 憲利)


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